(2017年)DAY5(9/1)最後につかんだ「何か」

(2017年)DAY5(9/1)
最後につかんだ「何か」

カラダは限界に来ている。しかしできるだけのタイムを出さなければ、それが使命だから

「もういっぱいいっぱいですよ。体力的にキツいですね。でも、最後までスペシャルテストは全力で行きますよ。なんとか、少しでもいいタイムを出さないと…。それだけです」スタートの前、パルフェルメの入り口で他のライダーとともに入場を待つ鈴木健二はそう話した。

日本人初のゴールドメダル獲得という高い目標を掲げての参戦。目標は今や遠ざかっているが、最後までベストを尽くそうとする闘志が、その表情には浮かんでいた。

毎朝15分の整備はスタート前のワーキングエリアで行われる。#210鈴木健二は毎日、前日に外しておいたバッテリーをここでつないでいた

この大会期間中に、フランス中部は夏から秋へと季節を移したようだ。DAY3までの猛暑がウソのように、明け方の最低気温は7度。チームジャパンがスタートする朝8時30分頃になっても気温はヒトケタ。前橋孝洋も、ウインドブレーカー代わりにレインウェア着て朝焼けの中をスタートしていった。鈴木、内山、前橋、ここまですべてのタイムチェックをオンタイムでこなして、5日目の250kmのルートに向かった。

ISDEは6日間の競技だが、最終日のDAY6は短いルートの走行とファイナルクロス(クラス毎に一斉スタートするモトクロス形式のスペシャルテスト)が行われるだけなので、長いルートの走行はこのDAY5で終了する。「今日を走り切れば…」という1日。しかし気を抜くことはできないという緊張した面持ちがどのライダーの様子からも見て取れる

DAY5、後はないが、ようやく走り方がつかめてきた!!

終始、笑顔を絶やさない、ISDE参戦6回目の内山裕太郎(YAMAHA)だがプレフィニッシュに到着して「今日はキツかったです。疲労でヤバかったですよ」と話す。今日は基本的に前日と同じルートとテストが使用される日だったが「全体的に昨日より荒れてるし、ダストもすごくで森の中なんてほとんどラインが見えなかった。

昨日はまだまだ走れると思ってましたけど、やっぱり5日目となるとしんどいですね。明日はファイナルクロスですね。怪我しないようにがんばりますよ!」と話す。サポートを受けるOUTSIDERS YAMAHAのワーキングエリアでは、いつものように前後タイヤを新品に交換して、明日のファイナルクロスに備え、マシンをパルクフェルメに進めた。


#211内山裕太郎、日を追うごとに研ぎ澄まされていく表情

チームでは一番若い前橋孝洋(KTM)は、終盤に向けてどんどん「場慣れ」をしてきたように見える。「なんとか、走れたって感じです。余裕はないです。難所が1ケ所カットされていたので、まだよかったですけど、昨日のままだったらホントにキツかったと思います。あと1日、ファイナルクロスだけですけど失敗しないうに気をつけて走ります」


タイムを即座に計算し、整備時間をコントロールするのもサポートの大切な仕事だ。#212前橋孝洋と中嶋宏明

ISDE、あるいはヨーロッパのエンデューロに特有とも言えるグラストラック、そこにトップライダーたちが刻みつけたライン、溝の走り方に、ずっと悩んでいたエース鈴木健二は、昨日の後半から何かをつかみ始め、今日は後半のテストで好タイムをマーク。これまでの90位台から、80位台にタイムを向上させることに成功。「やっとわかってきた。もう終わってしまうのが残念」と話す。この経験は、きっと次世代に受け継がれるだろう。


#210鈴木健二は毎日着実に総合順位を上げ、96位から88位へ。秒単位でライバルがひしめき合う中、順位を1つ上げることは非常に困難を極める。深いワダチも、ギリギリまで攻め込み、時にはステップをワダチに擦りながら走った

チームジャパンDAY5リザルト

緊迫するトロフィバトルー。国の誇りを背負うエースライダーの意地と本気

ワールドトロフィ争奪戦は、このDAY4になって突如、緊迫の度合いを増した。

首位のフランスチーム、そのエース格のクリストフ・ナンボタン(KTM)が手を負傷。なんとか走り続けているものの、本来のスピードを失った。そして、2位オーストラリアもダニエル・サンダース(KTM)も肩甲骨を骨折。痛みをおしてスタートするものの、いつ怪我を悪化させて戦線を離れてもおかしくない状況となった。そこで優勝候補として急浮上するのがENDURO GPチャンピオンのイーロ・レメス(tm)率いるフィンランドチームだ。

しかしフランスには、9分以上のアドバンテージがある。痛みをこらえるナンボタンは、今日、5本のテストで少しずつビハインドを削りながら、しかし大きく順位を落とさずに1日を仕上げることに成功。チームメイトのルイ・ラリュー(YAMAHA)、ジェレミー・タルー(YAMAHA)、そして荒れてきた路面でクリストフ・シャルリエ(Husqvarna)もファイトして、ナンボタンをカバー。オーストラリアに30秒ほど接近を許しただけで、7分30秒のリードを堅守してDAY6へとつなげた。

ダニエル・サンダース(KTM)は、とても骨折しているような走りには見えない。今季、初めてENDURO GPにフル参戦中の若者は、痛みに顔を歪ませながら朝10分のワークタイムで交換した前後タイヤを荒れた路面に押しつける。チーム内で2番手、ナンボタンを2分上回る好タイムを叩き出しフィニッシュ。フィンランドの追走を退けたカタチだ。フィンランドの3位は変わらず。

しかし、まだ豪州、北欧フィンランドともにトロフィ獲得の可能性は残して最終日を迎えることになる。

豪州女子、5連覇に向けて前進

すっかりISDEの主役を奪った感のあるウイメンズトロフィー。その立役者は、スペインのライア・サンツ(KTM)、そしてこの部門の5連覇を目前したオーストラリアチームの3名だろう。

女王サンツに対し、オーストラリアのタイラー・ジョーンズ(YAMAHA)は、たびたび一番時計を奪う活躍で女子部門総合2位。そしてチームメイトのジェシカ・ガーディナーは手指の骨折に耐えて、チーム成績に貢献を続けている。現在オーストラリアと2位のUSAとの差は約7分。勝負はファイナルクロスに持ち込まれるが、グリーンのジャージに身を包んだ豪州ウイメンズが優勢だ。

明日はパルクフェルメに隣接した特設コースでのファイナルクロス。世界一を賭けた最後のバトルを目撃するためにフランスだけではなく欧州全土からファンが集まる。このサイトとFacebookページでは、チームジャパンの力走を中心にレポートを続ける。どうか期待してほしい。

DAY5現在のWorld Trophyリザルト

World Trophy

1 FRANCE
2 AUSTRALIA +4:19.56
3 FINLAND  +5:49.69
4 PORTUGAL +12:50.56
5 SWEDEN +17:30.40

Junior World Trophy

1 USA
2 FRANCE  +2.62
3 ITALY +15.48
4 CHILE  +3:57.31
5 UNITED KINGDOM+4:03.87

Women’s World Trophy

1 AUSTRALIA
2 USA  +5:12.81
3 FRANCE  +8:32.90
4 SWEDEN +13:57.81
5 ITALY +22:14.39


エンデューロとは…その息吹を感じさせる街中のルート

 


エンデューロライダーに不可欠なものは冷静で強い心。マシンを降りてからも終始冷静に振る舞う#211内山裕太郎は真のエンデューロライダー

 


疲れ切った身体に力を込めて、自身2度目の総合順位2ケタのタイムを絞り出す#212前橋孝洋

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