Team Japan、静かに決戦の時を待つ(11月9日)

Team Japan、静かに決戦の時を待つ(11月9日)

前橋孝洋、釘村忠、渡辺学、馬場大貴の4名で結成された、日本のエンデューロ史上最強とも言えるワールドトロフィーチームは、ついに開会2日前までこぎつけた。早いライダーは、11月2日からポルトガルへ旅立ち、コースの下見などの準備を進めてきた。徒歩でおこなう下見は、なんと数日に分けて80km以上に及んだ。

11月8日には、決められたスケジュールで受付車検を完了。音量測定に不安を抱えていたもの、メカニックの平田雅宏や池田忠夫の尽力によって余裕を持って通過している。

会場でも、タイヤ交換の予行練習をする釘村忠。テンションも高い。
コンディションの調整に余念が無い渡辺学。食べ物やサプリメントなどにも最大限の気を遣う。時間があれば、どこでもストレッチをはじめ、決戦の日を待ち受ける。
2019年のワールドトロフィーチームは、アートブランドCALMAがエクステリアをデザイン。

26カ国の代表チーム

1913年に第1回大会が開催されてから100余年。2度の世界大戦による中止を挟んで毎年各国の持ち回りで開催が続けられてきたFIMインターナショナルシックスデイズエンデューロは、このポルトガルで第94回を迎える。主催は今、すべての準備を整えて世界各国から集まるライダー、チーム、そしてエンスージアストたちを、メイン会場のポルティマン・アルガルベサーキットに迎える。国代表のワールドトロフィチーム、女性による代表チームのワールドウイメンズトロフィチーム、そして23歳以下のワールドジュニアトロフィチームを送り出した国は26カ国。クラブチームの参加も含めると、約600名が、この伝統の6日間エンデューロにエントリー。11月9日(土曜日)には2日間に渡って行われた車両検査を通過した競技用のモーターサイクルが車両保管場所に収められ、11月11日(月曜日)のスタートを待っている。チームジャパンの4名、そして日本から参加している3つのクラブチームのライダーたちも無事に車検を通過し、ほっとした表情を見せている。風光明媚な海浜リゾートとして欧州の人々に人気の旅行先となっているポルティマン。11月の今は、日中の最高気温13〜18度、乾燥した風が冷たく感じられるが、涼しさはタフなライディングの助けになってくれそうだ。

乾いた大地

ISDEライダーの競技は、スペシャルテスト(タイム計測区間)の徒歩での下見から始まる。ベストなラインを見極め、記憶し、最初のタイムアタックから1/100秒単位でのタイム短縮を目指す。トップチームのライダーたちは1週間前から下見を開始し、すべてのテストを3回ずつ歩き、ラインを頭に叩き込む。チームジャパンのライターたちも、3〜4日間かけてすべてのテストを下見を終えた。砂漠性気候のポルティマンのテストは、概して乾燥した路面が多い。ロック、サンド、そしてこのまま晴天が続けば視界を奪うダストもライダーを苦しめる要素になるだろう。

第7次日本代表チーム

ISDEに日本代表チームが参加するのはこれが7度目だ。初めて参加したのは2006年ニュージーランド大会。以来、2007年チリ、2008年ギリシャ、2010年メキシコ、2017年フランス、2018年チリと続けられたが、今年のチーム構成は過去最強といっても間違いないだろう。ただし、4名のうちISDEら参加経験があるのは前橋孝洋ひとりだけという不安要素もある。ライダーたちの表情には、若干の緊張も見て取れる。

「ISDEのことを知ったのは、横澤選手が怪我をしてしまい、チームが代わりのライダーを探している、と声をかけていただいた時。それまではこういう国際大会があるとは知りませんでした」というのは馬場大貴だ。当初メンバー入りしていた横澤拓夢がレース中に負傷。急遽、馬場が指名されたのだ。2018年まで全日本モトクロス選手権で活躍。全日本エンデューロやクロスカントリー選手権の参戦経験もある馬場のスピードと耐久力に期待がかかったのだ。「まだそれほどエンデューロの経験がないので、今回のテストがどんな感じなのか判断できないんですけど、けっこうスピードレンジが高いですね。バイクは日本仕様よりも前後サスにかなり強いスプリングが入っていて、ここのコースでもしっかりと走れると思います。サスセッティングを重点的にやったんですが、かなりいい感じで仕上がっていると思います」と、ここ数日の準備について話す。「9月の日高で出て経験を積んでよかったと思います。ただ、1日のボリュームが倍ぐらいあるし、6日間ですからやっぱり不安はあります。でも、しっかり完走していい成績を出します」と表情を引き締めた。

想像を超える高速トラック

「かなりハイスピードですね。450ccでもトップギアで吹け切る場所がたくさんありますよ。全日本モトクロスのコースよりもスピードレンジは高いですね。しかも自然の地形で荒れているし、これが本当のエンデューロか? って感じです」というのは釘村忠だ。マシンはイタリアの名門チームレッドモトからレンタルしたCRF450RX、サスペンションなどの主要にパーツは日本から持ち込んだ。「バイクはパーフェクトです。体調もいいし、ベストコンディションで初日を迎えられると思います。1日目と2日目でどのぐらい攻められるかを見極めて、そこからタイムを出していければと思っています」と戦略を話す。今季はJECの開幕前からトレーニング量も多く、9月の日高では、2日間ともぶっちぎりのタイムで優勝と好調だ。「多くの方々に支えられてここまでくることが出来ました。期待に応えられるように、でも無理せずにいい成績を出したいと思います」と話す。

日本代表のプライドとは

「ISDEのワールドトロフィチームに参加しないか、というお話をいただいた時、本当の日本代表としてチームを作るなら、自分もそこに参加しなければ、と思いました」というのは、全日本クロスカントリー選手権(JNCC)での2年連続チャンピオンを獲得している渡辺学だ。一見、強気すぎるように聞こえる言葉だが、そこに他意がないことは、トップライダーとして活躍する一方、多年に渡って後進の育成に努め、モーターサイクルスポーツの発展に尽力してきた実績が裏打ちする。「6日間しっかり走り切ることはもちろんですが、日本のライダーもけっこう走れるなって、そう思われるようなリザルトを出したいですね。エントリー数が多いので、ちょっとしたタイム差ですぐに順位が大きく変わってしまうはずです。だから一本一本、気を抜かずに攻めないといけないですね。ただ、転倒すると怪我をしやすいコースなのでミスはしないように慎重に」と続けた。

重責との戦い

2017年のフランス大会に続けて、2度目の代表選出となった前橋孝洋は「再びワールドトロフィチームで走れることになって本当にうれしいです。すごく光栄なことでうれしいと同時に重責も感じています」と緊張の面持ちを見せる。他の3人同様、すべてのスペシャルテストの下見も完了した。「フランス大会の時は、見渡す限り緑で、牧草地のフラットなグラストラックがほとんどだったんですが、今回は対照的に、乾いていて岩や砂が多いコースです。攻めるのが難しいコースです。攻めるとクラッシュしやすいし、怪我もしやすいと思うので、ギリギリのところをいかに保つかがポイントになりそうです」と分析する。最大排気量のE3クラスを担当するが「新しい2ストローク300ccにもかなり慣れてきたので、しっかり6日間を攻めきるつもりです」と続ける。

準備は整った

ポルティマンのウォーターフロントで行われたオープニングセレモニーも終え、これで競技前のイベントもすべてこなしたことになる。明日11月10日の日曜日は休息日。ライダーたちは最後のコンディション調整に1日を費やすことになる。

レポート 春木久史

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