(2017年)DAY6(9/2)全力の戦いのあとに

(2017年)DAY6(9/2)
全力の戦いのあとに

秋空にトリコロールの旗が揺れる。シックスデイズはフランスの優勢で最終幕を迎えた

ファイナルクロスは朝8時から始まった。過酷な印象の大会だったが、さすがは世界各国のトップライダーたちが集まるイベントだ。5日間を走り抜き、最終日まで生き残ったライダーは500名以上。そのためファイナルクロスは全21ヒートという数に及ぶ。

最初はクラブチームクラス下位の選手のレースから始まり、徐々に成績の良い選手のヒートになっていく。4日目の後半からISDEに併催される”FIMエンデューロビンテージトロフィー”のファイナルクロスが行われる頃になると、コースサイドにはたくさんの観客が集まった。

目立つのは、もちろん三色のフランス国旗を掲げた自国チームのサポーターたちだ。フランスは、ワールドトロフィチーム、ジュニアトロフィチームともに、首位でこの6日目を迎えた。フランスのエンデューロヒーローたちが、世界中のトップライダーを相手に最後の力走を見せてくれる。前半3日間の猛暑が嘘だったかのように、涼しく乾燥した秋空の下、メインイベントのスタートが近づいていく。

序盤のつまづき。粘り強い戦い。落胆と成長

2010年のメキシコ大会以来、7年ぶりに結成された日本のワールドトロフィチーム。大きな期待を背負っての参戦だったが、初日からつまづいた。4名のうち一人、最大排気量のE3クラスを担当する滑川勝之(KTM)が、タイムアウトで失格。これによって、チームには6日間、毎日3時間のタイムペナルティが加算されることになった。

速さと同時に確実性が求められるルールによって順位が転落したのはチームジャパンだけではない。昨年の覇者USAも初日にサド・デュバルがリタイア。一瞬で、連覇の可能性を失ったのだ。

チームとしての成績は上位を望めなくなったが、残った3名は、個人としてもチームとしても全力の戦いを続けた。前半は暑さに、中盤は難しく荒れたトレイルに、そして後半は体力の限界に向き合った。

鈴木健二(YAMAHA)は、ゴールドメダル近づくためのタイムアタックに集中、内山裕太郎(YAMAHA)は、生粋のエンデューロ育ちとしての安定感を見せ、前橋孝洋(KTM)は、序盤こそナーバスな表情を見せ、危なっかしい場面を何度も見せたが、次第に精神的な余裕を獲得したようだ。トップグループでもタイムチェックで遅着のペナルティを受けるほど、トレイルは難易度が高く、そこにダストが加わりタフな戦いが続いたが、日本の3名は、すべてのタイムチェックをオンタイムでこなし続け最終日を迎えたのだ。


#210鈴木健二

やるしかない。リスクをかけたアタック。これがファイナルクロスだ

滑走路に特設されたモトクロスコース。「まったく平らなところにジャンプをいくつかのっけた感じですね。イケますよ、全開で。でも、すでに朝からたくさんレースをやった後なので、だいぶん荒れてきてますね。気をつけないと。でも最後までやりますよ(笑)」徒歩での下見を終えた鈴木健二が、そう言いながらも少しホッとした表情で最後のパルクフェルメに向かった。

E1クラス(4st250/2st125)のヒート1には前橋孝洋(KTM)もいる。鈴木のグリッド優先順位は20番目。すでに有利な場所は残されていなかったが、鈴木が選んだのは一番左側のインサイド。アウトサイドに逃げず、チャンスに賭けてリスクをとった。前橋もその横に並ぶ。1コーナーの砂塵の中、二人は何を見ていただろうか。


ひるむこと無く猛進する#210鈴木健二。後を追う#212前橋孝洋

内山のE2クラス(4st450/2st250)は、トップから最下位までがひとつのヒートに並んだ。オーバーオール首位を走るルイ・ラリュー(YAMAHA)は、今回のコースではいちばん有利と思われる左から5番目のインサイド。その横にイタリアのアレックス・サルビーニ、イギリスのMXGP出身ライダーネイサン・ワトソンも並ぶ。内山には選択肢がほとんどなく、アウトサイドにマシンを入れた。スタート15秒前のボードが下ろされ、450ccの咆哮がアナウンスをかき消した時、内山の眼から、いつもの笑顔が消えた。

 

「世界」はさらに遠くにある。ニッポン、惨敗から立ち上がるには?

すべてのレース終えた鈴木健二はこう振り返る。
「厳しいですね。とにかく日本のレベルを上げないことには。練習するコース、競技のコースもそうだし、ライダーも育てないと。この世界最高峰のレースに顔を出せないですよ、今のままでは。

しばらくぶりに参加してみて、やっぱりレベルが上がっていて、日本が置いていかれていることを実感します。今回、OUTSIDERS YAMAHAの、世界選手権用のバイクを借りての参戦でしたが、このバイクに乗って驚いたのは、スペシャルテストでの走りに完全に照準を合わせていて、要するにリエゾンの難しいところではカタくて乗りにくい。でもそういうバイクで戦えないとダメなんだってことですね。

リエゾンは速くなくたっていいわけですから、そこは乗りにくくたっていい。スペシャルテストで速ければいい。今はそういうバイクで走る競技になっているのに、日本はどんどん置いていかれている」

世界との差については、内山も同様に実感を強めた。「初めて参戦したのが2006年のニュージーランドでしたけど、それからさらに世界のレベルはトップも、全体も上がっていると思います。

来年の開催国はチリなので、たぶんまたサンドのテストが多くて、こことはまた違った難しさがあると思います。サンドを走りこんだり、トレーニングしていきたいですね。今回、バイクはよかったんですが、もう少し、自分にあったバイクに仕上げてスタートするために事前の情報をもっとしっかりと入手しなければならないと感じました。自分としてはWR450Fベースがよかったんですが、バリバリの世界選手権用のYZベースでした。このあたりは次回への課題ですね。


E2クラスは全員が同じヒートで戦う。太いエンジン音が轟く中、最後まで果敢にアクセルを開け続けた。#211内山裕太郎

前橋はISDE初参加だ。憧れの舞台でもあり、見るものすべてが新鮮で大きな価値を持っていた。「一番難易度が高いっていうセクションでも、なんとか乗りこなして、オンタイムで充分いけるってことがわかったのはよかったです。でも、一方で、スペシャルテストで、世界のレベルにはまったくついていけないし、走り方もわかっていない。大きな差を感じました。

そういうことがわかっただけでもよかったし、出場させてもらえてよかったと思います。ぼくはすごく、このヨーロッパのエンデューロシーンが好きなので、ここにいるだけでも、全部が楽しかったです。まだISDEに出たことがない人も、来たことがない人も、エンデューロが好きなら絶対一度は来てほしいと思いました」と眼を輝かせた。


柔軟性と心の強さを兼ね備えた#212前橋孝洋。次世代をリードしていくであろう日本の宝

初日にタイムアウトした滑川勝之は、2日目からサポートに徹してチームとしての戦いを続けた。「こういう形でトロフィチームに参加させてもらって、いろんなことが勉強になりました。ルートで後ろから来たライダーに道を譲ったことが原因でコースアウトしてしまって、それがタイムオーバーにつながったのですが”こうすればよかった”と悔やむ部分もあります。これで終わりではなくて、また成長して参加したいと思っています。みなさんに感謝しています」と話した。


ラインを譲り崖から転落し、初日にリタイアとなってしまった#213滑川勝之。悔しさを抱き、残りの5日間はチームのサポートに尽力した

チームジャパンリザルト

ワールドトロフィー 19位(19ヶ国中)

 

プライド、信頼、歓喜。これが国別対抗戦だ

第92回 FIMインターナショナルシックスデイズエンデューロ・フランス大会。ワールドトロフィチーム争いは、開催国フランスの優位で幕を開け、それが4日目まで続いた。

しかし、その4日目の後半、エースのクリストフ・ナンボタン(KTM)が手を負傷。本来のスピードを失ったことで、2位で追うオーストラリア、そして3位のフィンランドのチャンスが拡大。フランスは、なんとか貯金を使いながら、両国の猛追を振り切ろうという体勢でファイナルクロスに臨んだ。

エースのナンボタンを、ルイ・ラリュー(YAHAMA)、ジェレミー・タルー(YAMAHA)、そしてクリストフ・シャルリエ(Husqvarna)がカバーする。つまりこの3名が飛ばしに飛ばし、ナンボタンに、とにかく無事にチェッカーを受けさせるということだ。ファイナルクロス、最後のヒート。ナンボタンは、じれったくなるほど、ゆっくりと最後の周回をこなして、出迎えるチームメイトのもとでヘルメットを取った。その満足そうな笑顔には、自国フランスにトロフィをもたらしたこと、ファンの期待に応えることができた安堵と、そしてチームメイトへの信頼があった。

フランスはジュニアトロフィも獲得した。昨日まで28秒のアドバンテージを持っていたが、ファイナルクロスでイタリアに15秒差まで詰め寄られた辛くとも逃げ切っての勝利だ。

今年ほどウイメンズトロフィーが注目されたことはなかっただろう。優勝は、オーストラリアチーム。最強のエンデューロ女子たちは、これで5年連続のトロフィ獲得という偉業を達成した。2位USA、3位フランス。スペインチームは2日目にして2名がリタイアしたため最下位の9位。だが、ライア・サンツはウイメンズの個人総合優勝を獲得した。

ウイメンズの上位陣は、ワールドトロフィのカテゴリーで比較してもゴールドメダルを獲れる実力を見せた。この事実こそ、現在のISDE、しいては世界のエンデューロのレベルを示すものと言えるだろう。日本のエンデューロが知るべきものも、たぶんそこにある。

2018年はチリ大会。チームジャパンの挑戦は続く。

#100ジョセプ・ガルシアはGP(E2)で何度も優勝するポテンシャルの持ち主

World Trophyリザルト

World Trophy

1 FRANCE
2 AUSTRALIA +7:32.75
3 FINLAND +9:57.92
4 PORTUGAL +24:32.17
5 GREAT BRITAIN +29:09.63

Junior World Trophy

1 FRANCE
2 ITALY +28.36
3 USA  +2:09.34
4 GREAT BRITAIN  +6:22.98
5 SPAIN +10:20.65

Women’s World Trophy

1 AUSTRALIA
2 USA  +7:00.57
3 FRANCE  +24:44.68
4 SWEDEN  +33:00.81
5 ITALY  +44:49.03

4日目後半から行われたビンテージトロフィのファイナルクロス。博物館に展示されていてもおかしくない様なマシンが、ここでは現役の戦闘機として使われている。

 

6日間陰ながらチームをサポートしてきた中嶋宏明がチームジャパンの最後の激走を見守る

 

体力は既に限界を迎え、気力だけでマシンをプッシュする#212前橋孝洋。力の限り暴れるマシンを抑える

 

我々はこの世界に挑み続けることを誓う。また来年も会おう

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