11月14日(木) ポルトガル・ポルティマン
第94回FIMインターナショナルシックスデイズエンデューロ 競技第4日
続くサバイバルゲーム
1日の走行距離270km、走行時間はオンタイムで8時間、7本のスペシャルテストの合計は約1時間。ISDEとしては標準的なボリュームだが、昨日のDAY3は、ライダーにとって長い1日だった。流行のエクストリームエンデューロを想起させるような難コース。DAY3終了後の暫定で首位を走るUSチームのメンバー、ケイルブ・ラッセルは「午前中は寒さとマディ、午後は暑さとひどいダスト。両極端な一日でした」と振り返った。しかし、次第に荒れてきたスペシャルテストは、タフで知られるアメリカのクロスカントリーレースシリーズのGNCCで鍛えたライダーたちには、自分の庭を走るようなものだったようだ。
あまり良くないニュースもある。牧草地のスペシャルテストのコース上に、牧畜用の柵に使用されるワイヤーが落ちていて、少なくない数のライダーが、ワイヤーを後輪に絡ませたり、身体やバイクの一部にひっかかってクラッシュしている。個人総合タイムで競っていたジョセップ・ガルシア、ダニエル・サンダースのタイムロスも、それによるクラッシュが原因だった。現在、ワールドトロフィチームクラスの首位はUSAだが、オーストラリアのダニエル・サンダースはすでにその後のテストで個人成績を挽回しており、USAの優位は薄氷上と言える。チームジャパンのライダーはコンスタントに競技を進めており、DAY3には13位と着々と順位を上げている。すでに英国チームは2人目のリタイアを出してトロフィ争奪戦からも脱落するなど、ISDE2019はすでにサバイバルゲームの様相を呈している。そうした中で、初出場のライダー3名を含むチームジャパンの戦いぶりには落ち着きすら感じられた。そして4日目の幕が未明のポルティマンサーキットであけた。
渡辺学のタクティクス
一部変更、キャンセルされているセクションがあるが、ルート、スケジュールは基本的に前日と同じ。前日の走行により、特にスペシャルテストは荒れていて、耐久力のあるライダーが次第に順位を上げてくる。スタートして約40分で、最初のエンデューロテストに到着するが、ワールドトロフィチームクラスの上位ライダーがタイムアタックを開始してまもなく雨が降り出し、次第に雨足が強まっていく。昨日は午後に一旦乾きだしていた牧草地の土は、すぐにマディコンディションに戻っていった。
「このあたりは、毎日午前中に雨が降り出すことが多いとわかったので、今日は雨が降る前にできるだけ早くコマを進めようと考えていました。雨でコンディションが悪化する前に午前のエンデューロテストも終わらせたかったんですが、着いたらもう降ってましたね」と今日の戦略を振り返る渡辺学。「大きなミスもなかったですし全体としては順調だったと思います。リアのブレーキローターを曲げてしまいましたが、なんとかごまかして走れる状態だったので、そのままがまんして夕方のワークタイムで交換しました。トロフィチームとして来ているので、ひとつでも上位には行きたいですね。今日のリザルトを見ると10位との差が7分ですね。明日は攻めたほうがいいのか、あるいは今のペースを維持したほうがいい結果につながるのか、これからじっくり考えます」と続けた。渡辺は現在E1クラス37名中24位だ。
雨、強風、マディコンディション
北の山岳地帯では、午後になっても雨が続き、標高の高いところを走るルートでは、気温5℃の寒さと25メートルを超える強風もライダーの体力を奪い続けた。
「散々な1日でした」と、首をかしげるのは釘村忠だ。「最初のエンデューロテストで3回も転倒しちゃったし、その後のルートでも何度も転倒してしまいました。判断力が鈍っているんだと思います。疲れがたまってきて、身体もうまく動いていなかったと思います」さらに「2周目の後半にフロントブレーキを壊してしまって、最後の2本のテストはフロントブレーキ無しで走るハメになって…。結局最後までリズムをつかめないまま一日が終わった感じです。今はとにかく早く休んで、明日のためにできるだけ体力を回復させます」と言ってパドックを後にした。釘村は現在E2クラス37名中27位。昨日よりひとつポジションを下げた格好だ。
波乱の展開にも冷静な馬場大貴
前日はコースコンディションの悪化やコースマーキングの不備などもあり、クラブチームクラスでは、1周で競技を終了する対応がとられたが、今日も競技途中で変更が行われ、クラブチームクラスの競技は1周で終了した。その他にもタイム設定の調整等が行われているが、正式なリリースは届いていない。とにかく波乱の展開が続くポルトガルのシックスデイズだ。
「昨日も超キツかった岩場の上りが、今日は2日目にショートカットされて、もう最高にハッピーで最高の気分でした」と笑うのは馬場大貴だ。最もエンデューロ経験が浅く、競技フォーマットへの適応にも戸惑っていた序盤とはうってかわって、夕方のワークタイムでの仕事振りにも落ち着きが出ている。担当メカニックは、自らも2010年のISDEメキシコに出場しシルバーメダルを獲得している池田忠夫。「最初はタイヤ交換ひとつでも焦ってしまうことが多かったけど、あっという間にISDEに慣れちゃったね。ライディングもしっかりしているしたいしたもんだよ彼は」と馬場の適応力を認める。「そうですね、かなり慣れてきましたけど疲れもたまってます。激しいクラッシュはないですけど昨日より転倒は多かったです。フロントタイヤを交換できなかったので、今日はフロントが滑って、それを抑える体力がなくて苦労しました。昨日はリアのブロックを飛ばしちゃったので今日はタイヤのマネジメントに神経を使いました。おかげで最後までしっかり走れたと思います」。馬場の順位はE1クラス37名中30位。10分を切るタイムで前後タイヤを交換し、愛車をパルクフェルメに入れた。
疲労は限界に近づいたのか?
「今まで経験したレースの中で、一番か二番、自分とってはきつかったです。フランス大会の時よりずっとキツいです」と疲労の色を滲ませるのは前橋孝洋だ。
1周目のタイムチェックで8分の遅れ、その後もミスが多く、最終的には本来のタイムスケジュールから35分遅れのフィニッシュとなった。タイムリミットは30分なので、タイムオーバーによる失格の裁定という懸念があるが、このディレイの中には、救急車の侵入による強制的な停止が20分程度含まれているので、おそらくペナルティは調整されると考えられる。しかし前橋が苦戦続きなのは事実だ。疲労からルート、テストでも転倒を繰り返していて、ヒルクライムの難所ではリアフェンダーを破損。これもディレイの一因となった。競技終了後の現地時間19時現在、前橋のリザルトは発表されていないが、取材班は前述の通りペナルティは調整されると予測している。結果は今夜の審判員会議で判明するはずだ。
それでもワークタイムではリアタイヤとエアフィルターを交換。各部を調整してKTMをパルクフェルメに入れた。今一番やりたいことは何か、という月並みな質問に「熱いシャワー? いや、先にメカニックのみなさんにお礼を言いにいきたいです」と答えた。
ラストスパートに向けて
チームジャパンは4日目を終え、昨日よりひとつ順位を落として17カ国中14位。スイス代表に逆転された形だ。首位はUSA代表で変わらず、1分半の僅差でオーストラリアが迫っている。23歳以下のジュニアワールドトロフィはオーストラリア、そしてウイメンズトロフィチームクラスでは、タイラ・ジョーンズがクラッシュしてリタイア。オーストラリア女子代表はこれで2人目のリタイアとなり、一気に順位は転落。USAが首位、そして英国チームが2位に浮上した。
明日は競技5日目。最終日がほぼファイナルクロスだけだということを考えると、フルスケジュールでのエンデューロは1日を残すだけとなった。「今日、走りながら、ああ、明日はここを逆走しなきゃいけないのか、って思うセクションがいくつもありました。さらに荒れているし、新しいルートも多いので不安ですけど、とにかくあと一日がんばります。チームジャパンの応援よろしくお願いします(馬場)」。
レポート 春木久史
END
DAY4 | SpecialTest | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | Total |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
#140 | 渡辺学 | 8:23.24 | 8:16.75 | 11:13.56 | 8:58.22 | 7:43.52 | 11:24.96 | 7:03.46 | 1:03:03.71 |
+1:38.18 | +1:02.95 | +1:36.25 | +1:27.83 | +45.50 | +1:38.71 | +54.65 | +8:55.40 | ||
(80位) | (90位) | (77位) | (70位) | (68位) | (77位) | (76位) | (74位) | ||
#141 | 馬場大貴 | 8:51.03 | 8:07.55 | 11:48.58 | 10:11.61 | 8:13.84 | 11:58.49 | 7:08.84 | 1:06:19.94 |
+2:05.97 | +53.75 | +2:11.27 | +2:41.22 | +1:15.82 | +2:12.24 | +1:00.03 | +12:11.63 | ||
(92位) | (86位) | (86位) | (89位) | (85位) | (84位) | (81位) | (84位) | ||
#142 | 釘村忠 | 8:02.11 | 7:40.57 | 10:50.99 | 9:26.29 | 7:40.42 | 11:02.04 | 6:51.07 | 1:01:33.49 |
+1:17.05 | +26.27 | +1:13.68 | +1:55.90 | +42.40 | +1:15.79 | +42.26 | +7:25.18 | ||
(70位) | (65位) | (63位) | (81位) | (65位) | (62位) | (65位) | (67位) | ||
#143 | 前橋孝洋 | 10:11.16 | 8:50.80 | 16:48.14 | 12:06.01 | 9:34.10 | |||
+3:26.10 | +1:37.00 | +7:10.83 | +4:35.62 | +2:36.08 | |||||
(99位) | (98位) | (98位) | (96位) | (94位) |